新薬紹介の記事で誌面(画面)の都合上、なかなか取り上げる余裕がない「薬のお名前」。近年はベンチャーを含む外資系企業が創製した薬や、海外展開する薬が多く、アルファベットをカタカナ読みにした結果、販売名を聞いても、どんな薬かすぐにはぴんとこないことが多い。


 医薬品医療機器総合機構(PMDA)のサイトで公開されている『医薬品インタビューフォーム』には、販売名の「名称の由来」という項目があるものの、「特になし」「不明」「海外の販売名に準じた」などのそっけない記載が少なくない。その一方で、おっ!と目を引くものもある。


 例えば、レケンビ(エーザイ)の場合、一般名Lecanemabに、まさかの日本語で「健・美」(健やかさ・美しさのイメージ)を加えたという。また、24年における世界の大型医薬品ランキングトップ3に名を連ねる、キイトルーダ、エリキュース、オゼンピックのうち、唯一記載のあるEliquis(ブリストル マイヤーズ スクイブ)の場合は「“Elegant”と“Liquid”の合成語として命名され、“Equilibrium”(平衡)の意味を含む」という優雅さ。


 そこで、【日本の新薬】番外編として、24年度に国内で承認された新有効成分含有医薬品(NMEs)の「名称の由来」をもとに、新薬を別の側面から眺めることにした。


 ※図中、販売名の一部を○○表示で伏せてあるので、名称を推測してみてください。


■花言葉からのロマン派も

 


【アリッサ alyssa/Estetrol・Drospirenone/富士製薬】同剤は、富士製薬がEstetra社(旧:Mithra社)より導入した低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)であり、前者に相当するエステトロールが新有効成分だ。20年3月にカナダで経口避妊薬として承認されたが、日本の効能・効果は副効能である「月経困難症」


 販売名のもとになったアリッサムは、白・ピンク・黄色・紫・オレンジなどの小さな花が群生し、こんもりと咲く。花言葉にもとづく販売名は、24年度新薬の中でもいちばんのロマン派だ。

 

【クービビック QUVIVIQ/Daridorexant/ネクセラファーマ】同剤は、14年国内承認のベルソムラ(スボレキサント/MSD-第一三共)、20年承認のデエビゴ(レンボレキサント/エーザイ)に続く、デュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)。一般名のステム「-orexant」はオレキシン受容体遮断薬を表す。販売名は同剤によって実現する患者の姿を現しているかのようだ。


【タウヴィッド TAUVID/Flortaucipir(18F)/PDRファーマ】同剤は、アルツハイマー病に関わるタンパク質「タウ」に結合する低分子化合物であるフロルタウシピルを放射性フッ素で標識したPET検査用イメージング剤。ヒト脳内における凝集したタウに由来する神経原線維変化の画像化を目的に開発された。日本での効能・効果は「アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症患者におけるドナネマブ(遺伝子組換え)の適切な投与の補助」。


 海外では、Eli Lilly and Companyと、その完全子会社Avid Radiopharmaceuticals社が臨床試験を実施。販売名は、ターゲットであるタウと社名の一部を組み合わせたハイブリッド型だ。


【リブテンシティ LIVETENCITY/Maribavir/武田】同剤の効能・効果は「臓器移植(造血幹細胞移植も含む)における既存の抗サイトメガロウイルス療法に難治性のサイトメガロウイルス(CMV)感染症」。


 造血幹細胞移植や固形臓器移植後はCMV感染症の罹患率が高く、臓器障害や高い死亡率、さらには医療費の増大につながるという問題がある。そこで、移植後は、抗CMV治療薬によって血漿中CMV DNAを検出不能なレベルまで低下させ、免疫抑制期間におけるCMV感染症や合併症の発症を抑制することが求められている。


「粘り強く生きる」という命名は、移植を乗り超えた患者が感染症で苦しむことがないようにという願いが込められているのかもしれない。


【ザビセフタ Zavicefta/Avibactam・Ceftazidime/ファイザー】同剤は、新有効成分アビバクタム(β-ラクタマーゼ阻害薬)と、1978年に英国で開発されたセフタジジム(セファロスポリン系抗菌薬)の配合剤で、「薬剤耐性対策の新たな治療選択肢になり得ることが期待される」(同社)。


 有効成分名を組み合わせたシンプルな販売名は、処方者にはわかりやすそうだ。


【ミールビックⅡ MEARUBIKⅡ/乾燥弱毒生麻しん風しん混合ワクチン/一般財団法人 阪大微生物病研究会(BIKEN財団)】同剤は、小児期(1~3歳)の接種負担軽減のために開発されたミールビック(05年承認)を改良、風しんウイルスの培養基材をウズラ胚培養細胞から、セルバンクシステムで管理されたヒト二倍体細胞に変更し、供給リスクの解消を目指したものだ。


 販売名は、成分名と製造販売元名の一部を組み合わせたもので、意味を持たせつつ語呂がよい。